雨のち晴れ

自由帳

生徒に反抗されて体罰を行うことは許されるのか

こんにちは。

以前書いたブログでは体罰が学校教育法11条や刑法に抵触するのではないか、また、日本行動分析学会の声明文を引用しつつ体罰が許されない理由を書きました。それが以下の記事です。

yuki-h.hatenablog.com

今回、学生時代に集めた体罰に関する判例を読んでいたら、町田市の都立高校であった体罰と似たような事例があったので紹介します。

・事実の概要
教諭(被告人)が放課後に再試験を実施していた際、再試験を受ける必要がなかった生徒が教室内にいたため、生徒を廊下に出させようとしているうちに生徒のスカート丈が校則に違反していることに気づいた。教諭が生徒にスカート丈を正しく直すように指導したが、生徒が指導に従わず口答えするなどしたため教諭が激怒し、生徒の肩付近を2回連続して強く突き、さらに右側頭部付近を突き上げるなのど暴行(体罰)を加えたころにより、生徒がそばのコンクリートの柱等に激突し、その結果生徒を死亡させた。

・教諭(被告人)の主張
①教諭の行為は教育のために行われたもの。
②被害者は家庭での躾が十分ではなく、この点を無視して教諭だけに責任を問うことはできない。
体罰を容認させる空気が学校にはある。その原因は、躾教育や管理主義・選別教育等の功罪が問われるべき。
④定員を超える生徒数、不足する教員。詳細で窮屈な校則、躾教育の重視など教諭に体罰を容認せざる得なかった学校経営体質・教育態様をとったいて高校にこそ大半の責任がある。

・裁判所の判断(教諭の主張と対応するように書きます)
①「教育の名に値しない私憤に由来する暴行」
②ないし④ついて「体罰を禁止する学校教育法11条但書の趣旨は、問題生徒の数が増え問題性よりも深化して教師の指導がますます困難の度を加えつつある現状においても、学校教育の現場において何よりも尊重、尊守されなければならず、ましてや、教師が感情的になって暴行を振るうことは厳に戒められるべきであるとした」

・判決
刑法205条傷害致死罪。懲役2年(求刑・懲役3年)

参考:福岡高裁1996年6月25日(判例タイムズ921号297頁)

町田市の高校の事例では、生徒に命に関わるような怪我はありませでしたが、こう判例をみると町田市の事例ととてもよく似た事例で生徒が亡くなっていることが分かります。

この教諭は日頃から体罰を行っていたとのことです。TOPにあげた記事『教育における暴力的指導(体罰)がなぜだめなのか - 雨のち晴れ』にも取り上げましたが、まさに日本行動分析学会が「体罰に反対する声明」で指摘するように「体罰を受けると受けた人間の攻撃行動が増す」「繰り返しの体罰で耐性が上がり、同じ効果を得るためにより強い体罰を使わなくてはならなくなる」そういう状況になってしまったのではないでしょうか。人を死なせてしまう最悪の結果に至ってしまった...。

ここに判決文を全て載せたいのですが、そうするととても長い文章になってしまうので、僕が重要だと思う部分だけを抜粋して載せます。

高校生に対する生活指導を含め教育の現場においては当然のことながら対象者の人格の完成度が低い故に多大の忍耐力が要求されることは多言を要しないところであり、生徒に対する懲戒権について定めた学校教育法11条ただし書きで体罰を禁止しているのは、体罰がとかく感情的行為と区別し難い一面を有している上、それらを加えられる者の人格の尊重を著しく傷つけ、相互の信頼と尊敬を基調とする教育の基本理念と背馳しその自己否定につながるおそれがあるからであって、問題生徒の数が増え問題性よりも深刻化して教師の指導がますます困難の度を加えつつある現状を前提としても、その趣旨は学校教育の現場においてなによりも尊重・尊守されなければならないことはいうまでもない。ましては、生徒が反抗的態度を取ったからと言って、教師が感情的になって暴行を振るうことは厳に戒められるべきことである。
福岡高判平8・6・25判タ921号297

裁判所は、生徒に挑発されたからといって教師が感情的になり暴行を振るうことは厳に戒められるべきだと述べました。町田市の事例では教師に反抗的な態度をとった生徒に対して大きな批判が起こりました。教師を挑発しているのだから殴られて当然だというような主張です。体罰はわかりやすいです。いきがっていた生徒が教師にボコられて静かになります。短期的には効果があるわけです。長期的にはどうでしょうか。繰り返しになるので言いませんが悪影響があります。当然、殴られて打ち所が悪ければ障害が残ったり死亡したりするわけです。

最後に

生徒に挑発されたからといって教師が体罰を行うことは許されません。 挑発されて体罰を行うということは、教育の名の下に行われる私憤に基づいた暴力行為でしかないからです。また、体罰は最悪人を死なせることになります。そんなリスクを背負ってまで体罰をするべきではありません。